「小説」「物語」の定義
小説、物語には実は、そこまではっきりとした定義はありません。使う場面や文脈によっても異なる場合があります。今回は、『大辞林 第四版(三省堂)』を参考に解説したいと思います。
小説(novel)とは
日本語で「小説」とは、
文学の一形式。散文体の文学で、十八世紀以後、近代市民社会の生活・道徳・思想を背景に完成した。作者が自由な方法とスタイルで、不特定多数の読者を対象に人間や社会を描く様式。
『大辞林 第四版(三省堂)』より
という意味があります。これによると、小説には次のような特徴があるようです。
- 散文体で書かれている。
- 近代市民社会を背景に完成した様式である。
このうち、「散文体」とは、韻律・字数・句法などに制限のない文章、言い換えると書き方にルールのない自由な文章のことです。また、「近代市民社会を背景に」というのは、社会に対する「個人」という概念が発見されたことと関係を持っていることが示唆されます。
このことから、「小説」は自由な書き方で書かれた文章ですが、そこには「個人」という視点が存在するものを指すことがわかります。
また「小説」という言葉は、英語の「novel」の訳です。しかし厳密には、novelは日本語でいう長編小説を指す言葉です。じっさいに英英辞典では、
a long written story in which the characters and events are usually imaginary
「オンライン版ロングマン現代英英辞典」より
(訳:架空の人物やできごとを含む長い物語)と、定義されています。
また、架空のできごとであることがより強調される語句としては、「fiction」という単語もあります。英英辞典によれば「fiction」とは、
books and stories about imaginary people and events
「オンライン版ロングマン現代英英辞典」より
(訳:想像上の人々やできごとに関する本や物語)という意味です。
物語(story)とは
日本語で「物語」とは、
あるまとまった内容のことを話すこと。ものがたること。また、その内容。談話。
『大辞林 第四版(三省堂)』より
という意味があります。また、
文学形態の一。広義には、散文による創作文学のうち、自照文学を除くものの総称。すなわち、作者が人物・事件などについて他人に語る形で記述した散文の文学作品。特に人物描写に主眼がある小説に対して、事件の叙述を主とするものを指すことが多い。狭義には、日本の古典文学で「竹取物語」「伊勢物語」に始まり、「宇津保物語」「源氏物語」で頂点に達し、鎌倉時代の擬古物語に至るまでのものをさす。歴史物語・説話物語・軍記物語を含めることもある。
『大辞林 第四版(三省堂)』より
という意味も書かれています。ここでは「人物描写に主眼がある小説に対して、事件の叙述を主とするものを指すことが多い」と、「小説」という語句との使い分けが記載されています。ただ「指すことが多い」ということで、厳密な使い分けではなさそうです。
さらにこの定義によれば、「鎌倉時代の擬古物語までの古典文学」が狭義の物語であるといわれています。ただ、日本語の「物語」に特有の意味のようです。
物語という語句に対応する英語は「story」です。英英辞典によればstoryとは、
a description of how something happened, that is intended to entertain people, and may be true or imaginary
「オンライン版ロングマン現代英英辞典」より
(訳:なにかがどのように起こったのかの説明で、人々を楽しませることを目的としたもの。本当のことだったり、想像上のものだったりする)だそうです。
また、類義語には「tale」という語句もあります。「tale」とは、
a story about exciting imaginary events
「オンライン版ロングマン現代英英辞典」より
(訳:わくわくするような架空のできごとに関する物語)という意味です。
まとめ:小説と物語の違い
以上のことから、小説と物語の違いは次のようにまとめることができます。
- 小説と物語には、厳密な使い分けがあるわけではない
- 「物語」は、「小説」という概念を含んでいる
- 「小説」はすくなくとも架空のできごとについて書かれている
ただし「小説」は非常に自由な文章なので、単純に「物語⊃小説」とは考えられないかもしれません。